白い本の上に置かれた眼鏡
写真はイメージです

トップ / 目と脳

目と脳

外国語の勉強は認知症予防になる? 60代からの語学の比較試験と追跡研究

結論は、外国語を学ぶと認知症を防げるとまでは、まだ言えません。2つの言葉を長く使ってきた人は症状が出る年齢が数年遅いと報告されていますが、65歳以降に語学を始めた人の比較試験では、記憶や考える力の伸びはほとんど見られませんでした。観察研究と比較試験を分けて整理しました。

根拠 初期5分で読めます公開 2026.11.06更新 2026.11.06
RATRAT編集部
生成AIで下書きし、編集部が出典と内容を確認しました
この記事の要点
  • 2つ以上の言葉を長く使ってきた人は、認知症の症状が出る年齢が平均3.45歳遅いと、18の研究のまとめで報告されている
  • ただし、認知症になる割合そのものには、はっきりした差が出ていない
  • 65〜75歳の160人が11週間イタリア語を学んだ比較試験では、記憶や推理する力の伸びはほとんど差がなかった
  • 6か月の試験では、語学の組で記憶に関わる脳の部分の体積が保たれたが、記憶の成績が伸びたのは運動の組だった

外国語を学ぶと認知症を防げるとまでは、まだ言えません。2つ以上の言葉を長く使ってきた人は、認知症の症状が出る年齢が平均3〜4年ほど遅いと報告されていますが、65歳以降に語学を始めた人の比較試験では、記憶や考える力の伸びはほとんど見られませんでした。

2つの言葉を話す人は、認知症になりにくい?

研究で多いのは、子どものころから2つ以上の言葉を使ってきた人(バイリンガル)と、1つの言葉だけで暮らしてきた人を比べたものです。

2025年に英国のエディンバラ大学が発表したまとめでは、症状が出た年齢を比べた18の研究で、バイリンガルの人は平均3.45歳遅かったとされています。教育を受けた年数の影響は小さいと分析されています。

一方、認知症になる人の割合そのものを追った6つの研究では、はっきりした差は出ませんでした。2020年のオーストラリアなどの研究チームのまとめも同じ傾向です。診断を受けた年齢は3.3歳遅かったものの、認知症になる危険には明らかな差がありませんでした。

つまり、言葉を使い分ける習慣は認知症を「防ぐ」というより、症状が表に出るのを「遅らせる」可能性がある、という整理になります。脳に余力をためておく働き(認知予備力)が関係すると考えられていますが、仕組みはまだ確かめられていません。

大人になってから語学を始めても、脳は変わる?

ここが読者にとって大事な点です。生まれ育った環境で2つの言葉を使ってきた人の結果を、60代から教室に通う人にそのまま当てはめることはできません。確かめるには、くじ引きで組を分けて比べる比較試験が必要です。

スウェーデンのカロリンスカ研究所の試験では、65〜75歳の健康な160人を、11週間イタリア語を学ぶ組と、リラクセーションの練習をする組に分けました。語学の組はイタリア語の基礎を身につけましたが、記憶力や推理する力の伸びは、2つの組でほとんど差がありませんでした。

ドイツのハイデルベルク大学の試験では、65〜80歳の34人が、3週間、毎日1.5時間のスペイン語の初級講座を受けました。注意力などの主な項目に差は出ませんでした。ただし、もともと認知機能のテストの点数が低めだった人では、衝動を抑える力が伸びる傾向がありました。人数が少ないため、確かめるべき仮説の段階です。

効果ごとの根拠の強さ判定の基準
調べたこと根拠結果
2つの言葉を使う人は、認知症の症状が出る年齢が遅いか(18研究のまとめ)根拠 初期平均3.45歳遅い
2つの言葉を使う人は、認知症になる割合が低いか(6研究のまとめ)根拠 初期はっきりした差なし
65歳以降に語学を学ぶと、記憶や推理する力が伸びるか(160人の比較試験)根拠 有望ほとんど差なし
短期の語学講座で、注意力などが伸びるか(34人の比較試験)根拠 初期主な項目は差なし。点数が低めの人で伸びる傾向
6か月の語学で、記憶に関わる脳の部分の体積が保たれるか(142人の比較試験)根拠 初期保たれた。記憶の成績は変わらず
外国語を話す人が多い国ほど、老け方がゆっくりか(27か国の調査)根拠 動物危険0.70倍。国単位の比較

半年続けた試験では、何が分かった?

2026年には、ドイツのマックス・プランク研究所が、63〜78歳の142人を6か月追った試験を発表しました。語学だけ、運動(有酸素運動)だけ、語学と運動の両方、比べるための組の4つに分けています。

語学を学んだ2つの組では、記憶に関わる脳の部分(海馬の一部)の体積が保たれ、語学をしなかった組では減り方が大きくなっていました。一方、似たものを見分けて覚える記憶のテストで成績が伸びたのは、運動をした組でした。脳の体積の変化と記憶の成績の変化は、直接にはつながっていませんでした。

外国語を話す人が多い国では、老け方が違う?

2025年には、ヨーロッパ27か国の8万6,149人を調べた研究が発表されました。体の働きや持病、聞こえなどから「年齢より老けているか」を数値にし、国ごとに外国語を話す人の割合と比べています。

外国語を話す人が多い国ほど、年齢より早く老ける人の割合が低く、時間を追った分析でも危険は0.70倍でした。ただし、これは国単位の比較で、一人ひとりが外国語を話すかどうかを調べたものではありません。国の豊かさや教育など、ほかの違いの影響を取りきれているかは慎重に見る必要があります。この論文には2026年10月に訂正も出ています。

まだ分かっていないこと2つの言葉を使う人と1つの言葉の人を比べた研究は、ほとんどが観察研究です。移民かどうか、育った国や教育、暮らしの豊かさの違いを取りきれていない可能性があり、言葉の使い方の測り方も研究ごとにばらばらです。症状が出る年齢が遅いという結果も、研究によって差が大きく出ています。大人になってから語学を始めた人の比較試験は数が少なく、人数は34〜160人、期間は3週間〜6か月と短めで、認知症になる人が減るかを確かめた試験はありません。6か月の試験で脳の体積が保たれた結果は、記憶の成績の変化とは結びついていませんでした。27か国の研究は国単位の比較で、個人の語学の習慣を測ったものではなく、2026年10月に訂正も出ています。日本人を対象にした研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。

では、語学は始める価値がある?

認知症の予防を目的に語学を始める、と言えるだけの根拠はまだありません。それでも、新しいことを学ぶ楽しさや、人と話す機会が増えることは暮らしの張りになります。運動と組み合わせた試験もあり、無理のない範囲で続けられる形を選ぶのがよさそうです。

今日からできること
  • 語学は、認知症予防のためというより、学ぶ楽しさや人と話す機会のために選ぶ
  • 教室や会話の会など、人と話しながら続けられる形を選ぶ
  • ウォーキングなどの運動も合わせて続ける
  • 物忘れが気になるときは、自分で判断せず、かかりつけの医師に相談する
詳しく知りたい方へ(研究の中身)
バイリンガルと認知症のベイズ・メタ解析(Aging Neuropsychol Cogn 2026)英国エディンバラ大学。発症年齢を比べた18研究で、バイリンガルは症状が出た年齢が平均3.45歳遅い(95%信用区間2.8〜4.1)。教育年数の影響はわずか。発症率を調べた6研究では予防の効果を示す確かな根拠はなかった。認知症の種類ごとの研究は少ない
バイリンガルと認知症の系統的レビュー(Neuropsychol Rev 2020)横断研究を含むメタ解析。アルツハイマー病の症状が出た年齢は4.7年遅く、認知症の診断は3.3年遅い。予測区間は−1.9〜8.5と幅が大きい。認知症になる危険はオッズ比0.89(95%信頼区間0.68〜1.16、有意差なし)。軽度認知障害の診断年齢に差なし。著者の一部に製薬企業の治験に関わる報酬や関連企業の株の保有の開示あり。登録: PROSPERO CRD42015019100
スウェーデンの比較試験(Psychol Aging 2020)カロリンスカ研究所。65〜75歳の健康な160人を、11週間のイタリア語学習とリラクセーション訓練に割り付け。語学の組は基礎的な知識を身につけたが、言語性・空間性の知能、作業記憶、記憶の伸びの差はごくわずか
ドイツの比較試験(Front Aging Neurosci 2023)ハイデルベルク大学。65〜80歳の単一言語話者34人を、3週間・週5日・1日1.5時間のスペイン語初級講座と待機の組に割り付け。主要評価項目(実行注意)と副次評価項目は、直後・3か月後とも差なし。もともと全般的な認知機能が低めの人で反応抑制が伸びる傾向。利益相反なし。登録: DRKS00016552
ドイツの6か月の比較試験(Imaging Neurosci 2026)マックス・プランク人間発達研究所など。63〜78歳の健康な142人を、対照・語学のみ・運動のみ・語学と運動の4組に割り付け。海馬のCA3/歯状回の体積は語学の2組で保たれ、語学なしの組で減少が大きかった。似た物を見分ける記憶の成績は運動の2組で向上。体積の変化と記憶の成績の変化に直接の関連はなし。著者1人に記憶検査の企業の共同創業者・株主の開示あり
ヨーロッパ27か国の調査(Nat Aging 2025)8万6,149人。機能・教育・認知機能・持病・感覚の障害などから「年齢より老けているか」を数値化し、国単位の多言語の割合と比較。横断分析でオッズ比0.46、縦断分析で相対危険0.70。国単位の曝露で、個人の言語使用は測っていない。利益相反なし。2026年10月に訂正が掲載
出典
  1. Li Z, et al. Bilingualism effect for delaying dementia onset: a Bayesian meta-analysis. Neuropsychol Dev Cogn B Aging Neuropsychol Cogn. 2026. PMID 41006960
  2. Brini S, et al. Bilingualism Is Associated with a Delayed Onset of Dementia but Not with a Lower Risk of Developing it: a Systematic Review with Meta-Analyses. Neuropsychol Rev. 2020. PMID 32036490
  3. Berggren R, et al. Foreign language learning in older age does not improve memory or intelligence: Evidence from a randomized controlled study. Psychol Aging. 2020. PMID 32011156
  4. Grossmann JA, et al. Foreign language learning can improve response inhibition in individuals with lower baseline cognition: Results from a randomized controlled superiority trial. Front Aging Neurosci. 2023. PMID 37032827
  5. Polk SE, et al. Beneficial effects of foreign language learning and aerobic exercise on dentate gyrus volume and mnemonic discrimination in healthy older adults: Results from a randomized controlled trial. Imaging Neurosci (Camb). 2026. PMID 42516172
  6. Amoruso L, et al. Multilingualism protects against accelerated aging in cross-sectional and longitudinal analyses of 27 European countries. Nat Aging. 2025. PMID 41214212
無料動画セミナーのサムネイル
動画 約15分
特集・無料動画セミナー若返り研究の最前線にある「幹細胞」。いま、どこまで来ている?

15分の無料動画で、幹細胞の仕組みと最新の研究、受けられる場所や費用の考え方までお伝えします。

この記事は役に立ちましたか?

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。

次に読む

ReverseAging.Tech をつくる人

加藤順彦
代表者加藤順彦MARUICHI PTE. LTD. CEO

自らの体験をきっかけに、幹細胞点滴の魅力を広めています。100名を超える方々をご案内する中で、その可能性をますます実感しています。人生100年時代にふさわしい選択肢として、あなたの選択肢のひとつに加えていただけたら嬉しいです。

山中大介医師
監修者・医師山中大介DMTC CLINIC 院長

美容医療に携わる中で、幹細胞治療の可能性に注目しています。医師としての視点から、安心できる正しい情報を皆さんにお届けします。

よく読まれている記事

  1. シューマッハ氏の近況報道と、幹細胞治療について分かっていること
  2. マレーシアで受ける幹細胞点滴のご案内
  3. 半月板の再生医療「セイビスカス注」承認、誰がいつ受けられる?
  4. Muse細胞はいまどうなっている?開発中止の背景と研究の現在地
  5. 自分の脂肪から採る幹細胞、利点と限界は?自家と他家の比べ方
健康長寿のニュースを、メールで

世界の研究と話題から、編集部が選んだ記事をお届けします。