こんにちは、ReverseAging.Techを運営する MARUICHI PTE LTD の薬剤師、安藤です。
近年、幹細胞治療は「若さを取り戻すための選択肢」として注目されています。その一方で、多くの方が見落としがちな根本的な疑問があります。
それは
「私たちの幹細胞は、年齢とともにどのように変化していくのか?」
という点です。
幹細胞は加齢とともに「数が減り」「質が低下し」「周囲の細胞への影響が変わる」という複数の変化を積み重ねていくことが報告されています。
この記事(前編)では、こうした幹細胞の老化メカニズムを、専門用語を噛み砕きながらわかりやすく解説します。
後編では、この「細胞の若さ」が治療選びにどのように関わるのかをご紹介する予定です。あわせて参考にしていただければ幸いです。
幹細胞の老化とは?加齢とともに起こる変化の全体像
幹細胞の老化というと、難しい専門用語を連想されるかもしれませんが、実際には、
- 数の現象
- 質の低下
- まわりの細胞に与える影響の変化
という、三つの変化として捉えると分かりやすくなります。まずは、この全体像を整理しておきましょう。
幹細胞の「量」が減る | 失われる再生能力のストック

私たちの体内に存在する幹細胞は、組織の修復・再生を担う重要なストック、いわば「再生能力の総資産」です。
この幹細胞の総数は、実は生まれた瞬間が最も多く、約60億個の幹細胞を持っていると言われています。
しかし、私たちの再生力の根幹を担う「幹細胞」は、加齢とともに急速に消費され、指数関数的に減少すると報告されています。
わかりやすく、0歳の幹細胞量を 100% とすると…
- 20歳: およそ10%前後に低下
(90%ではありません。発育の過程で大部分が消費されます) - 40歳: 4%程度まで減少
- 50歳: 2〜3%程度
- 80歳: 1%を下回ることも
というように、年齢とともに幹細胞の数が急激に目減りしていきます。
この量的な減少こそが、高齢になるほど怪我の治りが遅くなったり、病気からの回復に時間がかかるようになったりする根本的な原因の一つと考えられています。
再生医療において細胞を外部から補給する必要性が高まっている背景には、この避けられない「量的な限界」が存在します。
幹細胞の「質」が低下する | 働き方そのものが変わっていく
幹細胞が本来持っている能力には、
- 必要な細胞に変化する力(分化能)
- 自ら増えて数を確保する力(増殖能)
- ダメージを受けた組織へ移動する力(遊走能)
- 周囲の炎症を静める調整力(免疫調整能)
などがあり、これらが総合的に働くことで、組織の修復がスムーズに進みます。
しかし、加齢した幹細胞では、これらの能力が若年者に比べて明らかに低下することが報告されています。
具体的には、
- 分化の精度が下がり、増殖のスピードが遅くなる
- 損傷部位まで移動しにくくなる
- 炎症性の物質を分泌しやすくなる
といった変化がみられます。
特に「炎症性物質を出しやすくなる」という性質は、老化細胞特有の現象であり、まわりの細胞の働きにも影響するとされています。
この点については、次の項目で詳しく説明します。
老化細胞が周囲へ与える影響(SASP) | 目に見えない「悪循環」のはじまり

幹細胞の老化で特に注目されているのが、老化細胞がまわりに発する「メッセージの変化」です。
老化した幹細胞や周囲の細胞は、炎症性サイトカインや酵素など、さまざまな物質を分泌しやすくなり、この現象は SASP(Senescence Associated SecretoryPhenotype | :老化関連分泌現象) と呼ばれています。
SASP が問題視されるのは、周囲の細胞まで老化させたり、慢性炎症がつづきやすい体内環境をつくってしまう可能性があるためです。
具体的には、SASPが引き起こす影響には、
- 炎症が長引きやすくなる
- 組織の線維化(硬くなる)が進みやすい
- 周囲の細胞の機能まで低下させる
といった点が指摘されています。
つまり、幹細胞が老化すると「質」や「量」が失われるだけでなく、
体内の修復環境そのものに負荷をかけてしまう可能性があります。
この環境の悪化こそが、加齢とともに回復力が落ちる根本的な理由のひとつと考えられており、若い幹細胞を選ぶ重要性を裏付ける要素にもなっています。
SASP(老化関連物質分泌現象)で問題となる「慢性炎症」に関しては、別の記事でより詳しく解説しています。気になる方はチェックしてみてください。

なぜ幹細胞は老化するのか:3つの生物学的メカニズム
そもそも、なぜ幹細胞は年齢を重ねるにつれて働きづらくなるのでしょうか。
その背景には、細胞内部で徐々に進行する「老化のメカニズム」が複数存在すると考えられています。
ここでは、幹細胞の性能が加齢とともに低下する根拠となる代表的な3つの生物学的要因を紹介します。いずれも国際的に研究が進んでいる領域であり、幹細胞老化を理解するうえで欠かせない視点です。

①テロメア短縮と細胞分裂の限界
細胞が老化していくプロセスの中でも、最もよく知られている仕組みが「テロメアの短縮」です。テロメアとは、染色体の端に存在する保護キャップのような構造で、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなる性質を持っています。
このテロメアが一定の長さまで短くなると、細胞はそれ以上分裂できなくなり、「老化細胞」として働きが制限される と考えられています。
幹細胞にはテロメラーゼというテロメアを延長・修復する酵素を持ちます。そのため、通常の細胞より多く分裂できる能力を備えていますが、それでも加齢とともに、テロメアは確実に短縮し、分裂寿命の限界に近づいていきます。
その結果として、
- 新しい幹細胞を生み出すスピードが落ちる
- 組織の修復に必要な細胞供給が追いつかなくなる
- 炎症や損傷に対する反応が遅れやすくなる
といったことが起こります。
テロメアが短くなることで幹細胞は分裂の上限に近づき、新しい細胞を供給する力が弱まっていきます。
そのため、加齢が進むほど修復に必要な幹細胞が不足しやすくなり、回復力そのものが落ちていくと考えられています。
②ミトコンドリア機能低下とエネルギー不足 | 修復に必要な「エンジン」が弱っていく

細胞が働くためには、多くのエネルギーが必要です。そのエネルギーを生み出しているのが「ミトコンドリア」で、いわば細胞の「エンジン」のような役割を担っています。
幹細胞も例外ではなく、組織の修復や分化、損傷した部位への移動といった高度な働きを行う際には、多量のエネルギーが必要になります。
ところが、ミトコンドリアは加齢の影響を受けやすく、
- エネルギー産生が低下する
- 活性酸素が増えて細胞内部のストレスが高まる
- 分化や増殖といった動きが鈍くなる
などの変化が起こることがわかっています。
これは、幹細胞が本来もつポテンシャルを十分に発揮できなくなる「質的な老化」につながります。
ミトコンドリア機能が低下した幹細胞は、エネルギー供給が不十分になりやすく、増殖や移動といった働きが低下することが報告されています。
③DNA損傷・酸化ストレスの蓄積 | 設計図が少しずつ傷ついていく

幹細胞が本来の働きを発揮するためには、細胞内部にある「DNA(設計図)」が正しく保たれていることが重要です。DNA には、細胞が増えるための情報や、どのように修復に参加するかといった“指示書”が書き込まれています。
ところが、私たちの細胞は日常的に紫外線や活性酸素など、さまざまなストレスを受けており、この DNA に小さな傷(損傷)が生じます。
若い幹細胞はこうした損傷を素早く修復できますが、加齢とともに修復の精度はゆっくりと低下していくと考えられています。
設計図そのものがダメージを受けた状態が続くと、
- 細胞が増えにくくなる
- 炎症をしずめる働きが弱くなる
- 老化現象(SASP)をまわりの細胞に広げやすくなる
といった変化が積み重なります。これは、いわば幹細胞が本来の働き方とは少し違う振る舞いをし始めるイメージです。
このように、DNA の損傷が蓄積し、修復力が追いつかなくなることが、幹細胞の機能が年齢とともに低下していく一因とされています。
幹細胞の老化は、テロメア短縮やミトコンドリア機能の低下、DNA 損傷の蓄積など、複数の要因が重なり合って進むと考えられています。こうした要因に加え、まだ十分に解明されていない仕組みも関与している可能性があります。
これらの変化が少しずつ積み重なることで、幹細胞が本来もつポテンシャルが低下し、修復力や反応性に影響が生じるとされています。
なぜ「細胞の若さ」が治療結果を左右するのか?

ここまで、幹細胞が年齢とともにどのように変化していくのか、生物学的な背景を整理してきました。
量の減少、質の低下、そしてSASPに代表される周囲への影響。
これらの要因が少しずつ積み重なることで、幹細胞は本来の働きを十分に発揮しづらくなると考えられています。
では、この「細胞の若さ」は、実際の治療選びにどのように関わってくるのでしょうか?
後編では、
- 若い細胞と加齢した細胞の明確な機能差
- 幹細胞点滴を受ける際にどのような視点で細胞ソースを選ぶべきか
- 日本とマレーシアで提供される治療がどう違うのか
といった内容を、具体例を交えて解説していきます。
なお、ReverseAging.Techでは、難しくなりがちな幹細胞を分かりやすく学べる無料のセミナー動画を公開中です。もし幹細胞治療をお考えであれば、ご自身の後悔しない幹細胞選びにお役立てください。


