こんにちは。ReverseAging.Tech 薬剤師の安藤です。
エンガジェット日本版にて、間葉系幹細胞を使った再生医療製品であるステミラック注の治験参加者の記事が公開されました。
ステミラック注は脊髄損傷の治療薬ですが、現時点ではその治療を受けることができる人は限られています。その対象は「受傷後31日を目安に治療を開始することができる人」とされています。
エンガジェット日本版に連載されている治験参加者の方は2000年にケガをされて、2018年にステミラック注の治療をお受けになられたようです。
ステミラック注のもととなる間葉系幹細胞は、高い増殖能力と、筋肉や神経、脂肪、骨などに分化する能力を持っているだけでなく、ES細胞やiPS細胞の研究開発では避けられない倫理面や安全面の問題が少ないとされており、再生医療・アンチエイジングの領域で非常に注目されています。間葉系幹細胞と他の幹細胞(ES細胞、iPS細胞)の異なる点については、以下の記事で解説しております。
再生医療とは?不治の病に対する新たな治療法
従来の医療では、一度大きく傷ついた神経や組織は元に戻らないと考えられていました。
両生類のイモリは尻尾だけでなく、心臓や目の一部を失っても再生します。驚くべきは、一度だけでなく何度も再生するということです。なぜ人ではイモリのように再生が起こらないのか?このメカニズムを基礎の一つとして考えられたのが「再生医療」です。
老化により劣化した骨や軟骨、脳梗塞による麻痺、認知症や動脈硬化など、二度と元に戻らないと考えられている多くの症状の改善に、再生医療が期待されています。
再生医療の素材として注目されているものとして、ES細胞、iPS細胞などがありますが、中でも倫理面や安全面の問題が少ないという点で間葉系幹細胞が注目されており、今回ご紹介するステミラック注も、この間葉系幹細胞をもとに作られた医薬品です。
札幌医科大学 – ニプロ社 共同開発『ステミラック注』とは?
ステミラック注は、脊髄損傷の治療薬で、脊髄損傷に対する再生医療製品としては2018年、当時では世界初となる販売承認を受けました。
ステミラック注は患者自身の骨髄から採った骨髄液を培養することで作られます。骨髄から骨髄液を採る過程は大変ですが、投与方法は点滴で静脈に投与するという比較的手軽な方法です。
その効果は「脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善」とされており、現に、ステミラック注の投与が、脊髄損傷を負った患者の手足の麻痺を改善したという報告もあります。
『ステミラック注』の抱える課題と期待
ステミラック注について注目すべきは、その治療を受けられる人は「受傷後31日を目安に骨髄液採取の実施が可能な患者」と治療対象が限定されていることです。
「慢性期=事故から時間が経過してしまった」の患者には、治療効果が当時ははっきりしていなかったり、検証が済んでいなかったため、このように適応が限定的であったと考えられます。
つまり、数年前、数十年前に交通事故などで脊髄損傷を負い、半身不随になってしまった方々が使える治療薬ではないということです。
もし、私たちが脊髄を損傷するような大きな事故に遭った後、ステミラック注の存在を知らず・知らされずに約1ヶ月が経過してしまうと、現状ではこの治療を受けることができません。
今回ご紹介したエンガジェットの記事では、2000年にケガをされた方が、2018年にステミラック注の「治験」を受けたと書かれており、18年間動かなかった足がステミラック注を投与したら2日後に動いたという非常に興味深いコメントをされています。
この治験は、脊髄損傷の「慢性期=事故から時間が経過してしまった」の患者への効果等を検証するものであったようです。
事故後数年以上が経過して、今もなお麻痺や半身不随に悩まされている方はたくさんいるでしょう。もし慢性期の脊髄損傷の患者にもステミラック注の効果があると証明され、実際に使えるようになれば、より多くの人が救われることとなります。
ステミラック注の今後の行方には目が離せません。
近未来の間葉系幹細胞医薬品
現在、国内で市販化されている幹細胞医薬品はステミラック注の他、数種類しかありません。
ただし、治験段階の間葉系幹細胞製品には様々なものがあります。
一例を挙げると、まずはロート製薬が開発中の間葉系幹細胞製品があります。新型コロナウイルス感染の重症化の原因とされている急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療と、お酒の飲み過ぎやウイルス感染が原因で知られている肝硬変の治療を目的に研究開発が進められています。
さらに国外に目を向けると、世界中の企業が間葉系幹細胞の研究開発を行っており、その対象疾患は、膝軟骨の損傷や、肌の光老化、脳梗塞、認知症など、幅広い領域となっており、近未来には私たちもお世話になることがあるかもしれません。
海外で受けられる幹細胞治療とは?
興味深いことに、日本ではステミラック注のように自分の細胞(自家細胞)を利用した間葉系幹細胞医薬品しか市販化されていないのに対し、海外では自分以外の細胞(他家細胞)を利用した製品が増えてきています。
また、海外では中軽度の症状の改善や、アンチエイジングを目的とした幹細胞投与の例が増えてきていることも大きな特徴です。
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なお、今回ご紹介したエンガジェット日本版の記事は、2024年1月現在では掲載されていないようです。