Muse(ミューズ)細胞は、「多能性(いろいろな細胞になれる可能性)」と「腫瘍化しにくさ(安全性面の期待)」の両立が語られ、再生医療の文脈で注目されてきた細胞です。
もともとは骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)と関係が深いとされ、間葉系組織にわずかに含まれる特殊な細胞として説明されることもあります。
ところが2023年2月、三菱ケミカルグループがMuse細胞を用いた再生医療等製品(CL2020)の開発中止の公表以降、「Muse細胞って結局どうなったの?」と気にする声も見られます。
Muse細胞への期待の大きさからか、「Muse細胞は治療に使えますか?」というお問い合わせや、情報収集のために当社へご連絡くださる方もいらっしゃいます。
そこで本記事では、2026年時点の情報にもとづき、Muse細胞の基本(何が注目されたのか)を整理したうえで、開発中止報道の背景と論点、そして研究の現在地を、できるだけ誤解のない形で解説します。
Muse細胞とは?間葉系幹細胞(MSC)との関係を1分で整理

Muse(ミューズ)細胞は、Multi-lineage differentiating Stress Enduring Cellの略で、東北大学の出澤教授グループが見いだしたとされる細胞です。
特徴として、ES細胞・iPS細胞のように「多能性(さまざまな細胞に分化できる可能性)」が期待される一方で、再生医療で実績のある間葉系幹細胞(MSC)に近い「腫瘍化しにくい(安全性面の期待)」も併せ持つ、と説明されています。
いずれも、幹細胞であるため、それぞれの分化・安全性・実用化について表でまとめました。
| 観点 | Muse細胞 | 間葉系幹細胞(MSC) | 関係を一言で |
| 分化の 特徴 | 外胚葉・中胚葉・内胚葉へ 分化できるとされている | 基本的に間葉系 (骨、軟骨、脂肪、筋肉、神経など) への分化できる | Muse細胞は、間葉系組織の中に わずかに含まれている幹細胞の1種 |
| 安全性 について | 「安全で腫瘍化しにくい」 と期待される | 倫理面・安全面の課題が比較的小さい | Muse細胞は、間葉系幹細胞の安全性に加え 多能性が期待される |
| 実用化 について | 不明 | ・特定の疾患にはすでに医薬品化されている ・自由診療では適用外疾患や、 抗老化の文脈でつかわれることが多い | ・Muse細胞は、当面受けられない ・「いま受けられる」のは、間葉系幹細胞 |
上の表の通り、Muse細胞は「間葉系幹細胞とは別物」ではなく、間葉系幹細胞の中で注目されてきた特殊な細胞として整理する方が誤解が少ないです。
それでは、Muse細胞はなぜ期待されていたのでしょうか、理由を見ていきましょう。
Muse細胞は何が「新しかった」のか|期待された理由

Muse細胞が注目された理由を一言でまとめると、ES細胞・iPS細胞で語られる「多能性(さまざまな細胞へ分化できる可能性)」への期待と、間葉系幹細胞(体内の組織を支える細胞に関わる幹細胞の一種)に近いとされる「比較的現実的な安全性・運用性」を、両立できるかもしれないと示した点にあります。
従来、ES/iPSは、理論上の期待が大きい一方で、臨床で使うには腫瘍化などの懸念を含め、越えるべきハードルがあると理解されてきました。
Muse細胞はそこに対して、「多能性が期待できるのに、腫瘍化しにくい(とされる)」というストーリーで関心を集めました。
さらに、Muse細胞は、間葉系幹細胞と関係が深い文脈で語られることが多く、「間葉系幹細胞という母集団の中から、性質の良い細胞を選び出し、分離・濃縮して製剤化できるかもしれない」という開発の絵が描きやすかった点も大きいでしょう。
つまり、製造・品質管理・供給といった現実の医療に必要な要素と結び付けて語れたことが、期待を押し上げました。
次の章では、期待が大きかったMuse細胞で起きた「開発中止」報道について、何が止まり、何が止まっていないのかを切り分けて整理します。
「開発中止」報道の内容まとめ|何が止まり、何が止まっていないのか

まず押さえるべき事実はシンプルです。2023年2月、三菱ケミカルグループはMuse細胞を用いた再生医療等製品「CL2020」の開発を中止すると公表しました。
理由として、直近の臨床開発状況、実用化までの時間軸、今後の医薬事業戦略などを総合的に勘案した、と説明されています。
何が「止まった」のか
止まったもの:「三菱ケミカルグループとしてのCL2020開発プロジェクト」
(※CL2020:再生医療等製品の開発コード)
追加情報として、同社の説明では2018年から脳卒中を対象に臨床試験を行っていたが、実用化までの時間や投資規模などを踏まえて開発中止を決めた、という趣旨が示されています。
また、同社資料ではMuse細胞のライセンスを契約に基づき返還する旨も述べられています。
その後の業界報道として、同社が再生医療開発の組織を廃止し「再生医療から撤退」と説明した、という記事も出ています。これは「Muse細胞全体」ではなく、同社グループの事業としての撤退の話です。
何が「止まっていない」のか
一方で、「開発中止=Muse細胞が消えた/研究が終わった」という意味ではありません。
止まっていないもの:「Muse細胞という概念そのもの、大学・研究機関などでの基礎研究や、別主体での応用可能性の検討」
2025年2月の報道では、Muse細胞を発見した東北大学の研究チーム(出澤真理教授)が、治療薬の開発権利(特許)をシンガポールにあるイギリス資本の会社へ譲渡したとされています。
日本発の技術でありながら、日本企業が開発を最後まで十分に支え切れなかった点は残念に感じます。ただしバイオ産業では、資金や開発体制、提携の都合で主導権が海外へ移るケースもあり、一定程度は起こり得ることだと考えられます。
とはいえ、海外で研究・開発が前に進み続けているのは明るい材料。近い将来、再生医療の選択肢が一段増えることに期待したいところです。
現時点で「実用段階の最先端」に近い選択肢は間葉系幹細胞(MSC)点滴|Muse細胞との違い

Muse細胞は「多能性×安全性」の両立が期待されてきた一方で、現時点で臨床応用(=医療としての実装)が先行しているのは、間葉系幹細胞(MSC)であるという整理が現実的です。
理由はシンプルで、間葉系幹細胞を用いた治療は日本や欧米で規制当局の審査を経た承認例(再生医療等製品)が複数存在するからです。
国内の例としては、ニプロの「ステミラック注」があります。
ステミラック注は、外傷性脊髄損傷を対象に条件・期限付きで承認された再生医療等製品です。
このことは、間葉系幹細胞を用いた治療が「制度上の審査を経て医療として運用されている」例があることを示しています。また近年は、同系統の自己骨髄由来間葉系幹細胞製品(STR03)について、ALSを対象とした第II相試験も進められています。
今回のMuse細胞に関する記事はいかがでしたでしょうか。
実用化には検証や体制づくりがなお必要と考えられますが、研究・開発は継続しており、将来的に再生医療の選択肢が広がる可能性には注目したいところです。
ReverseAging.Techでは、難しくなりがちな幹細胞を分かりやすく学べる無料のセミナー動画を公開中です。もし幹細胞治療をお考えであれば、ご自身の後悔しない幹細胞選びにお役立てください。

