運動は記憶や考える力を保つ? 比較試験とまとめで分かったこと
体を動かすと頭の働きにもよい、とよく言われます。数千の比較試験をまとめた解析と、高齢者を2年間追った大規模な試験の結果を並べて、どこまで分かっているかを整理しました。
- 2,724の比較試験・約26万人をまとめた解析では、運動をした組で記憶や判断などのテストの成績が上がっていた。差は小さめから中くらい
- 50歳以上に限ったまとめでも、有酸素運動・筋トレ・太極拳などで成績が上がっていた
- 一方、70〜89歳の1,635人を2年間追った比較試験では、運動の組と健康教室の組で認知機能に差がなかった
- よく体を動かす人ほど後年の認知機能が保たれる傾向は、追跡研究のまとめでも見られるが、関連は弱い
運動をすると、記憶や判断などのテストの成績が少し上がることは、多くの比較試験をまとめた解析で示されています。ただし、何年も続けて年齢による低下を防げるかは、大規模な比較試験でもはっきりしていません。
運動をすると、頭の働きは変わる?
2025年に、運動と認知機能(覚える・考える・判断する力)の比較試験を集めたまとめを、さらにまとめ直した解析が発表されました。133のまとめ、2,724の試験、約25万8,000人分という大きな規模です。
運動をした組では、認知機能全般のテストの成績が上がっていました。差の大きさを示す数値は0.42で、記憶は0.26、実行機能(計画を立てる、注意を切り替えるなどの力)は0.24です。研究の分野では、0.2前後を小さい差、0.5前後を中くらいの差とみなすことが多く、その間に入ります。ただし、この数値はテストの点の差で、日常生活の違いを直接表すものではありません。
軽い運動や中くらいの強さの運動でも、成績の向上が見られました。子どもや若い人のほうが、大人や高齢者より差が大きい傾向でした。質の低いまとめを除いても、結果は変わりませんでした。
50歳以上の人では、どうだった?
50歳以上で地域に暮らす人を対象にした比較試験のまとめもあります。2018年に発表され、36の試験を分析しています。
運動をした組では、認知機能の成績が上がっていました(差の大きさ0.29)。有酸素運動、筋力トレーニング、いくつかの運動の組み合わせ、太極拳のどれでも、成績が上がる方向の結果でした。1回45〜60分で、中くらい以上の強さの運動に、成績の向上との関係が見られています。もともとの認知機能の状態にかかわらず、結果は同じ傾向でした。
長く続けた大規模な試験では?
米国の8施設で行われた試験(LIFE)は、ふだんあまり体を動かさない70〜89歳の1,635人が対象です。片方の組は、歩く運動と筋トレ、ストレッチを2年間続けました。もう片方の組は、健康について学ぶ教室に通いました。
2年後、記憶や処理の速さのテストに、2つの組で差はありませんでした。軽度認知障害(物忘れなどがあるが日常生活は保たれている状態)か認知症になった人も、運動の組で13.2%、教室の組で12.1%と、差はありませんでした。80歳以上の人や体力の低い人に限ると、運動の組で実行機能がよい傾向がありましたが、参加者を分けて見た結果です。
2025年の米国の試験(POINTER)では、60〜79歳の2,111人が、運動に加えて食事、頭を使う活動、人との交流を2年間見直しました。専門家と決まった計画で取り組んだ組は、自分のペースで取り組んだ組より、認知機能の伸びがわずかに大きくなりました。2つの組とも成績は上がっており、差は小さなものです。また、運動だけの影響は分けられません。
| 調べたこと | 根拠 | 結果 |
|---|---|---|
| 運動で認知機能のテストの成績は上がるか(2,724試験のまとめ直し) | 根拠 確立 | 全般0.42・記憶0.26・実行機能0.24の向上 |
| 50歳以上でも上がるか(36試験のまとめ) | 根拠 確立 | 0.29の向上。運動の種類を問わず同じ方向 |
| 2年間の運動で、高齢者の認知機能の低下は小さくなるか(1,635人の比較試験) | 根拠 有望 | テストも認知症などの発生も差なし |
| 運動を含む生活習慣の計画的な見直し(2,111人の比較試験) | 根拠 有望 | 自分のペースの組よりわずかに大きく伸びた。運動だけの影響は不明 |
| よく動く人は後年の認知機能が保たれるか(104の観察研究のまとめ) | 根拠 初期 | 危険が3%低い。10年超の追跡では関係なし |
よく動く人は、年をとっても頭の働きが保たれる?
運動量と、その後の認知機能を追った観察研究のまとめが、2024年に出ています。104の研究、約34万人分です。
よく体を動かす人は、認知機能が落ちる危険が3%低くなっていました。記憶や、言葉をすばやく思い浮かべる力との関係も見られました。研究チームは、関連はあるが弱いと結論しています。
10年を超えて追った研究に限ると、はっきりした関係は見られませんでした。追跡が短い研究では、頭の働きが落ち始めた人が先に動かなくなる、という逆の向きの影響が混じる可能性があります。
では、どうすればよいか
運動でテストの成績が少し上がることは、多くの比較試験で確かめられてきました。一方で、認知症を防ぐと言えるだけの根拠はまだありません。無理のない強さで、続けられる運動を選ぶことから始められます。
- この1週間に体を動かした時間を書き出してみる(歩く・階段・筋トレ・太極拳など)
- 息が少し弾む程度の運動を、できる日数で続ける。まとめでは軽い〜中くらいの強さでも成績の向上が見られた
- 1人で続きにくければ、教室や仲間と決まった時間に行う
- 持病のある方や、しばらく運動していない方は、始める前に医師に相談する
- 物忘れが気になるときは、運動で様子を見るだけにせず、医療機関で相談する
詳しく知りたい方へ(研究の中身)
| 運動と認知機能のまとめ直し(Br J Sports Med 2025) | 比較試験の系統的レビュー133本(2,724試験・25万8,279人)。全年齢・全集団。標準化平均差: 認知機能全般0.42、記憶0.26、実行機能0.24。記憶と実行機能は子ども・青年で大きい。低〜中強度で効果が大きい傾向。1〜3か月の短い介入と体を動かすゲームで全般・記憶の効果が最大。質の低いレビューを除いても有意。利益相反なし。PROSPERO CRD42023468991 |
|---|---|
| 50歳以上の運動と認知機能のまとめ(Br J Sports Med 2018) | 地域在住の50歳超を対象とした比較試験39本を採用、36本・333の効果量で多層メタ解析。効果量0.29(95%信頼区間0.17〜0.41)。有酸素運動・筋力トレーニング・複合運動・太極拳のいずれも有意。1回45〜60分・中強度以上で効果と関連。認知機能の状態にかかわらず一貫。利益相反なし |
| LIFE(JAMA 2015) | 米国8施設、座りがちで歩行障害のリスクがある70〜89歳の1,635人。中強度の運動プログラム(歩行・筋トレ・柔軟)818人と健康教育817人。24か月後の数字符号置換課題(差−0.01、p=0.97)、言語記憶の遅延再生(差−0.03語、p=0.84)に差なし。軽度認知障害または認知症の発生は13.2%対12.1%(オッズ比1.08)。80歳以上・身体機能の低い人で実行機能の改善(交互作用p=0.01)。登録: NCT01072500 |
| US POINTER(JAMA 2025) | 米国5施設、認知機能低下のリスクがある60〜79歳の2,111人(女性68.9%)。運動・頭を使う活動・食事・社会参加・健康チェックを、構造化した高強度の介入(1,056人)と自己主導の介入(1,055人)で比較。2年間の認知機能の伸びは年0.243SD対0.213SD、差0.029SD(p=0.008)。重い有害事象は151件対190件。著者の一部にアルツハイマー病協会の職員、製薬企業からの報酬の開示あり。登録: NCT03688126 |
| 身体活動と認知機能低下の観察研究のまとめ(JAMA Netw Open 2024) | 追跡1年以上の観察研究104本・34万1,471人。認知障害・低下の発生の相対リスク0.97(95%信頼区間0.97〜0.99、ファンネルプロットの非対称を補正後)。10年超の追跡では有意な関連なし。エピソード記憶と言語流暢性に関連。用量反応関係ははっきりせず。利益相反なし |
- Singh B, et al. Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis. Br J Sports Med. 2025. PMID 40049759
- Northey JM, et al. Exercise interventions for cognitive function in adults older than 50: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2018. PMID 28438770
- Sink KM, et al. Effect of a 24-Month Physical Activity Intervention vs Health Education on Cognitive Outcomes in Sedentary Older Adults: The LIFE Randomized Trial. JAMA. 2015. PMID 26305648
- Baker LD, et al. Structured vs Self-Guided Multidomain Lifestyle Interventions for Global Cognitive Function: The US POINTER Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025. PMID 40720610
- Iso-Markku P, et al. Physical Activity and Cognitive Decline Among Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Netw Open. 2024. PMID 38300618
この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。












